【満川社長の真面目でおかしな日記】第二章 コインランドリー界・三大ミステリー事件簿

こんにちは。コインランドリーチェーン「ランドリープレス」代表取締役の満川です。
第1章では、私が副社長時代に水巻店をオープンした際の「初月100万円」の歓喜と、夜な夜な100円玉を回収し綿ゴミと闘っていた現場の泥臭いエピソードをお話しさせていただきました。
さて、代表取締役になりたての私が、経営の勉強をしながら個人としても2店舗のオーナーとして現場に立ち続けていると、時に「科学では説明のつかない怪奇現象」や「ドラマ以上にドラマチックな人間模様」に出くわすことがあります。
無人のコインランドリー。そこは一見、無機質な機械が整然と並んでいるだけの味気ない場所に思えるかもしれません。しかし、一歩足を踏み入れれば、そこにはお客様それぞれの生活があり、喜怒哀楽があり、そして店主を悩ませる数々の「謎」が渦巻いているのです。
今回は「第2章」として、私が現場で目撃してきたコインランドリー界の「ミステリー現象」とドラムの回転の向こう側に広がるディープな人間模様について、たっぷりとお話しさせてください。





1.コインランドリー界・三大ミステリー事件簿
お店を経営していると、思わず「なんでこんなことが起こるんだ……?」と首をかしげたくなる出来事が日常茶飯事で発生します。まずは、私が長年現場で遭遇してきたミステリーのトップ3をご紹介しましょう。
ミステリー①:【片方だけの靴下神隠し事件】
これは全世界のコインランドリーオーナー、そしてご利用いただくすべてのお客様を悩ませ続けている永遠の謎です。
「家に帰って洗濯物を畳んでいたら、お気に入りの靴下が片方しかない」
みなさんも一度は経験があるのではないでしょうか。そして、お店の「忘れ物コーナー」やドラムの隅には、ポツンと取り残された「片方だけの靴下」が寂しそうに転がっています。
「相棒は一体どこへ行ったんだ……?」
あまりの頻度に、私は本気で「大型乾燥機のドラムと外枠の隙間には、異次元へ通じるポータル(ワームホール)が開いているのではないか」と疑ったことがあります。片方の靴下は、時空を超えて別の次元のコインランドリーへ転送されているのではないかと。
……まあ、現実的に言えば「家から持ってくる途中にどこかで落とした」か「洗濯ネットに入れずに洗ったため、ドラムのゴムパッキンの隙間に強力な遠心力で巻き込まれた」のどちらかなのですが、取り残された靴下のあの哀愁漂う姿を見るたび、私は心の中で「すまん、相棒を見つけてやれなくて……」と静かに合掌しています。
ミステリー②:【ポケットの中のタイムカプセルと溶けた惨事】
清掃時、洗濯機や乾燥機のドラム内を覗き込むのはオーナーの大切なルーティンです。そこには時折、お客様がポケットに入れたまま忘れてしまった「時代遅れのタイムカプセル」が転がっています。
ダントツで多いのは「クシャクシャになったレシート」や「千切れたティッシュ」
これらが洗濯・乾燥のプロセスを経ると、ドラム内で爆発し、まるで粉雪のように他の衣服にへばりつきます。自分がやらかした時の絶望感たるや凄まじいものがありますが、実はこれ、乾燥機の強力な風量で飛ばすと意外と綺麗に取れたりします。しかし、本当に恐ろしいのはここからです。
☆溶けた飴玉&ガム:ドラムの金属面に高温で固着し、カチカチの飴細工のようになります。
☆フタの開いたリップクリーム:温風でトロトロに溶け、ドラム全体に油分の膜を張ります。
☆謎のネジや硬貨:ドラムと接触して「ガラガラガッシャン!」と凄まじい異音を響かせ、最悪の場合は機械を破壊します。
これらを発見した時の私の脱力感といったらありません。夜な夜な専用の有機溶剤とスクレイパーを持ち出し、ドラムの中に首を突っ込んで、涙目になりながらベタベタの油分や固まった飴を削り落とす……。これが経営の勉強中である「新米社長」の夜の裏の顔です。
みなさん、ドラムに服を放り込む前に、今一度ポケットに手を突っ込んで「タイムカプセルチェック」をお願いいたします。
ミステリー③:【ジェルボール投入口誤爆事件】
最近増えているのが、ポーション型の液体洗剤(いわゆるジェルボール)の使い方のミステリーです。
当店の最新型洗濯乾燥機は、洗剤も柔軟剤も「自動投入」されるハイテク仕様になっています。お客様が持参される必要は基本的にありません。しかし、親切心からか「家から持ってきたジェルボール」を使おうとされるお客様がいらっしゃいます。
問題はその「入れ場所」です。ドラムの中に衣服と一緒に放り込めばまだ良いのですが、なぜか「乾燥機のフィルターポケット」や「洗剤の投入口(※自動投入なので塞がっているか、水が通らない構造)」にポンと置かれて放置されていることがあります。
結果どうなるか。温風で外側のフィルムだけが溶け、洗剤の原液が不気味な青や緑のドロドロとなって投入口から垂れ流しになるのです。翌朝、店舗に入った瞬間、鮮やかなブルーの液体がドラムのフタを伝って床に垂れているのを見たとき、
「宇宙人の血液か……!?」
と本気で焦りました。文明の利器も、正しく使わなければ惨劇を生むという切ないミステリーです。
2.ドラム回転凝視マニアと、夜のコインランドリーの人間模様
ミステリー現象もさることながら、コインランドリーで最も興味深いのは「そこに集まる人間たちのドラマ」です。無人の店舗だからこそ、人は素の自分に戻ります。スマホを眺める人、本を読む人、ぼーっと外を眺める人。その中でも、私が密かに心を惹きつけられているのが「ドラム回転凝視マニア」のお客様たちです。
〇30分間、ただぐるぐると回る洗濯物を見つめる人々
店内に用意された椅子に座り、スマホを取り出すわけでもなく、じっと目の前の乾燥機を見つめているお客様がいます。ドラムの中で、重なり合い、持ち上げられ、温風に舞い上がり、重力に従って落ちていく衣類たち。泡が弾け、水がうねり、一定のリズムで「ゴトゴト……ゴトゴト……」と重低音が響きます。一見すると「ヒマなのかな?」と思われるかもしれません。しかし、あれは違います。
あれは「現代の炎(たき火)」なのです。
キャンプでたき火の炎をずっと見つめてしまうように、一定のリズムで回転し続ける洗濯機・乾燥機の動きには、人間の脳をリラックスさせる視覚的・聴覚的なセラピー効果があります。忙しい日常、職場の人間関係、家庭の悩み、SNSの通知に追われる毎日……。そんな喧騒から離れ、深夜のコインランドリーで一人、温かい風の音とグルグル回る洗濯物を眺める。それは、誰にも邪魔されない
「究極のマインドフルネス(デジタルデトックス)」
の時間なのです。深夜巡回中、疲れたスーツ姿のサラリーマンが、回るドラムを見つめながら深々とため息をつき、やがて少しだけ表情を和らげていく姿を何度も見ました。その背中を見るたび、私は心の中でこう呟きます。
「わかるよ。いろいろあるよね。でも大丈夫、君の服も、疲れ切った心も、今この機械が綺麗に洗い流して、ふかふかに乾かしてくれているからね」と。
コインランドリーは、ただ服を洗う場所ではありません。傷ついた現代人が、明日また社会へ戻っていくための「心の洗車場」でもあるのです。現場で見かけた個性的すぎるお客様たち。長年オーナーをやっていると、ドラム凝視マニア以外にも、忘れられない個性的なお客様にたくさん出会います。
〇ありえないほど手際のいい「科学のアリエール」おばあちゃん
ある日、大量の洗濯物を持って来られたご近所のおばあちゃん。カゴから服を取り出すやいなや、目にも留まらぬ手さばきで
「色物」「白い服」「タオル類」「大物」
と完璧に分類していきます。その動きはまるで長年の研究者。「おばあちゃん、手際がすごいですね!」と声をかけると、おばあちゃんはキリッとした顔で一言。
「兄ちゃん、洗濯は科学なのよ。アリエールも『科学の洗濯』って言ってるでしょ? 適当に洗うなんて、ありえないから!」
まさかのCMフレーズばりの名言とドヤ顔。あまりの説得力に、私も思わず「ありえない……!」と心の中で叫びつつ、店舗の看板に「科学の洗濯、ありえます」と書き加えそうになりました(※踏みとどまりました)。
〇絶対失敗したくないダウンジャケットおじさん
高級なダウンジャケットを手に、不安そうな顔で30分近く洗濯機の前でフリーズしていた男性。
「これ……洗っても大丈夫ですかね?ペシャンコになりませんか?」
と蚊の鳴くような声で相談されました。私は「大丈夫です!コインランドリーの大型テニスボール(※乾燥時に一緒に入れるとふっくら仕上がるアイテム)と一緒に乾燥機に入れれば、羽毛が空気を含んで新品みたいに復活しますよ!」と熱弁。
1時間後、出来上がったパンパンに膨らんだダウンジャケットを抱きしめ、
「新品よりフワフワだ……!」
と少年のように目を輝かせて帰っていかれた笑顔は今でも忘れられません。
4.現場の人間模様から学んだ、経営者としての気づき
新米経営者として勉強中の身である私にとって、こうして現場でお客様のリアルな姿やドラマに触れることは、何物にも代えがたい学びの場です。人はなぜ、コインランドリーに来るのか。
「家で干すのが面倒だから」
「雨が降っているから」
確かに表面的な理由はそうです。しかし、その奥底には、
「忙しい家事の時間を少しでも減らして、子供と遊ぶ時間を作りたい」
「仕事で疲れたから、ふかふかの温かいお布団でぐっすり眠りたい」
「清潔な服を着て、明日の大切なプレゼンに臨みたい」
という、「より良い一日を過ごしたい」という人間の切実な願いがあります。だからこそ、私は現場を掃除するとき、ただゴミを拾うのではありません。
「次に来るお客様が、少しでも気持ちよく過ごせるように」
「回るドラムを見て、少しでも心が軽くなるように」
そんな祈りを込めながら、今日も床を磨き、ガラスを拭き、フィルターのホコリを取り除いています。コインランドリーのドラムは、今日もぐるぐると回り続けています。そのドラムの向こう側には、この街で懸命に生きる人々の、愛おしくもたくましい日常が詰まっているのです。